2004年04月12日

「紀ノ川河川整備計画原案」作成に向けて

3月9日「第19回紀ノ川流域委員会」が開催され「紀ノ川河川整備計画素案」に対する各委員、住民からの意見書に基づいた「原案」に弾みがつく審議が行われました。
大滝ダムの問題もありますが、最も懸念する問題は「岩出井堰」の全面改築です。もう一つ紀ノ川大堰を造る計画です。

 私は当初より岩出井堰全面改築には反対の意見を述べてきています。しかしながら委員会は是認する方向性になりつつあります。
今回の審議、河川整備に向けた説明でもう一度大滝ダムがもたらした問題を含め堰の是非について協議の要請を行いました。
 昨今の地方自治のあり方も多様化して、治水、利水の考えが根本的に変わりつつあります。この状況を鑑み慎重に検討を続けることが今日の大型公共事業に求められています。

協議は私の意見書と当日の資料を基に質疑を行いました。質疑、意見書の紹介の前に今回の素案に至る経緯と背景を簡単に述べます。具体的な骨組みを紹介することでより明確に素案への経緯を理解して頂けるものと思います。      
先ず、紀ノ川河川整備計画と大滝ダムは切り離せない治水論で同時進行してきました、そのことが前提です。そして大滝ダムが整備計画の全てを物語るといっても過言ではない背景があります。紀ノ川流域委員会の中川委員長は大滝ダムの設計管理者というのもその理由です。中川委員長の口癖は大滝ダムを語らずして紀ノ川の整備計画はないと力説するのが委員会での定番説になっていました。従って大滝ダムの洪水調節容量2500トンが機能して初めて私達の念願であった「紀伊丹生川ダム」建設中止の現実があるというのが持論です。

建設中止の背景は利水目的の消滅が全面的に論議になりましたが、実は利水から洪水対策目的へのすり替えは常套手段として主張されていました。但し、基本高水論は私達の河川砂防技術基準違反であるとの反論で整備局の正当性が著しく崩れ、私達の主張を認めざるを得ない審議状況(担当専門官が左遷とも思われる降板)のなかで進められましたが。しかし再び大滝ダムの治水効果が紀ノ川治水計画の要であることが前面に押し出される結果になりました。

そして、紀伊丹生川ダム建設の中止と大滝ダム建設が関連付けされ、戦後最大実績降雨であるS34.9の実績降雨を対象雨量とした目標流量9900ンに対してその妥当性を認めざるを得ない治水対策論になった訳です。その結果が冒頭での「岩出井堰」の老朽化に伴う農業用水と治水対策名目の全面改築、紀ノ川大堰をもう一つ造るという計画が策定されようとした訳です。

紀ノ川河川整備計画素案は大滝ダムの洪水調節と築堤、掘削、狭窄、そして堰の全面改築が盛り込まれた計画で、新河川法が提唱した氾濫型治水論は全く活かされず、遊水地現地見学、実地調査の審議も河川敷における法律の下では全く考慮されることなく公共事業優先の計画案だったのです。

この素案に対して、既に2月13日から紀ノ川流域8箇所において住民説明会が行われています。しかし「紀ノ川の川づくり」に対するアンケートならびに説明会への参加は28万世帯のちらし配布に対して、アンケートは3500通の回答でまずまずということですが、説明会への参加者は延べ人員が1115人、問題の岩出井堰流域の2箇所で7名という無関心さで終わりました。また、箇所によっては全く質問なしという現実で終わっています。従って整備計画に対しての具体的な意見が皆無という状況で「原案」作成に向かった訳です。そこで、第19回「紀ノ川流域委員会」への意見書提出ということに至りました。以下に意見書を掲載します。そして、これに基づき委員会で昨年から全国のダム工事当初計画予算の跳ね上がり、もしくは倍増の新聞記事を提示して「素案」に対する意見を述べた訳です。

紀ノ川河川整備計画素案に対する意見書

堰の修改築について
紀ノ川大堰を皮切りに岩出井堰の全面改築、藤崎、小田井堰と修改築の計画が素案に盛られている。ここでは岩出井堰の全面改築について述べることにする。その前に紀ノ川において、治水、利水上最も大事であるとの主張から建設された紀ノ川大堰と大滝ダムについて言及する。

先ず、治水目的が全く見えてこない大滝ダムは自然、人的環境破壊だけをもたらした運用の目処が立たない、戦後のダム公共事業の汚点の代名詞になりつつある欠陥ダムとして全国の注目を浴びている。機能不全に陥っている大滝ダムに付いて問題点を指摘すると共に今後のダム建設への貴重な警鐘になることを願って述べる。

大滝ダムは近年事業費最大規模のダム工事として長い年月を要し周到な準備の下で行われた。そのはずの工事が欠陥工事であったというショッキングな出来事が、こともあろうに当時からの地滑り警告をずっと無視してきての惨事だっただけに驚きと怒りが交差する全国注目の的になったといえる。

私は、第16回「紀ノ川流域委員会」でこの地滑り事故は「人災である」と強く主張した。早速の調査検討委員会の対処は兎も角として、国土省は2月7日再び驚きと怒りが交差する6年の対策工期延長と約270億円の費用増額の発表を行った。対策を施工するには工期と予算は付き物である。しかし、怒る理由はと言えば、この時に注目しなければならない国土省の見解表明、特定多目的ダム法を盾に取り各自治体が割り当て金額を飲まなければ水利権を喪失すると脅し文句を付言していることである。

近年、国は、河川は国民の財産であると公に宣言している。であればこの台詞はおかしい。最近の暴力団でもこの類の台詞は使わない。もっと上品に言ってのける。とすれば、国土省のこの脅しは国民を愚弄している省庁に有るまじき発言との誹りを免れないといえる。これらの注目度日本一の大滝ダムは1962年の着工から計画変更を繰り返し、工事予算も230億円から3480億円に膨れ上がりさらに対策費用の増額270億円である。

一旦膨れ続けた大滝ダムは止まることのない増額を繰り返しその都度国民を脅し続け、全てを破壊し続けることになりはしないか。近年の本体工事着工から地滑り対策工事の一連の費用と工期を考えれば自ずとこのダムの非効率性が浮かび上がってくる。約半世紀致命的に近い洪水がない紀ノ川河川においてその効用が幻かしつつあるにも拘らず、工事を続けなければならないほど非生産的なことはない。
 
戦後日本の復興に伴い森林、 河川の整備が進められてきた。戦後度重なる台風の被害時とは明らかに整備状況が違うことは明々白々のことである。当流域委員会において徹底した比較協議はされなかったがそれは今日の常識化した見解があったものと理解できる。旧工事実施基本方針での迷信的基本高水に基づく机上の空論に振り回されている時代ではないことは、当の整備局と紀ノ川流域委員長が一番理解しているはずである。

次に、全く利水目的を失くした空手形の紀ノ川大堰について述べる。この大堰は、景観、環境破壊だけをもたらして昨年仮運用に漕ぎ着けた。実に計画から約30年後の完成である。しかし紀ノ川大堰の本格運用については全く先の見通しがついていない。それは新六ヶ井堰の撤去と主目的である大阪府への分水を可能にする導水路工事の計画がないことである。

これは大阪府の水需要の減少に伴う現実の問題として浮上している。水利権だけを主張して計画を先延ばしすれば、国土省の常套キャッチフレーズ「万が一の水不足の為に確保しておく」ことにはならない。だからと言って目的の適正判断がない工事は着工できないだろう。要するに紀ノ川大堰は河口に仁王立ちする公共事業の箱物でしかないということである。和歌山市での住民説明会において、紀ノ川大堰の大義は洪水対策の治水目的であると説明したが、時間が経つと目的も変わる。大滝ダムと紀ノ川大堰がなければ和歌山市が水没するという洪水警報を今時鵜呑みする善良な市民はいない。その時の都合論でしかない国土省の説明は国民すべからく承知していることである。ここに紀ノ川大堰と大滝ダムを列記したことの意味は、如何に長年の工期と莫大な事業費が時代の推移と共に無用の長物と風化してきたかを知ることにある。そして紀ノ川河川整備計画素案にあげられている堰の改修について示唆するところ大であると考え極簡略的に述べたものである。

「紀ノ川流域委員会」のキーワード「てもどりのない計画」とは

紀ノ川流域委員会の目標とする修改築工事の提言は、委員長自らが都度主張している、「てもどりのない工事」である。この考え方が岩出井堰の場合は全面改築になる。要するに列記した2つの堰と同じあらゆる周辺状況を無視した巨大工事として計画される。

岩出井堰の全面改築の必要性は流域委員会で治水上の観点ら説明があったが、その他の視点、利水、環境、景観からは全くといって良いほど審議されていない。治水上での土砂堆積が問題視され、もう一つは老朽化によるものであった。近年日本の河川状況での堆砂問題は日増しに深刻化している。昨年6月の黒部川の連携排砂は富山湾に深刻な漁業被害を与え話題になった。専門家は湾そのものがダムの湖底と同じヘドロかする、その解決策は排砂ゲートの常時解放しかないと指摘している。

また、土砂堆積問題と老朽化を抱えた九州球磨川の荒瀬ダムは昨年日本初になる「ダム撤去」を決定した。要するに、土砂堆積の解決方法はゲートの常時解放もしくは堰の撤去でしかないということである。話を岩出井堰に戻せば、整備局は土砂堆積による流量障害を理由に固定堰の撤去と全面改築による可動堰が一番望ましいてもどりのない工事計画だと説明する。しかし、指摘のあるように常時解放が望ましいのであって可動堰にしなければならない根拠は何処にもない。整備局の根拠は150年に1回の洪水対策上てもどりのない大規模全面改築岩出井堰の計画が妥当だと飽く迄も主張する。

現実の問題に戻そう。そもそも周辺の要望がない公共事業で起業主が決まっていない。事業費の概算も知らされていない。また、紀ノ川の水需要の実態を現実に把握して、堰周辺の水利用の現状認識を先ず行わなければならない。さらに環境、景観についての徹底した協議に基づく計画案でなければ「素案」としても意味がない。従って、全面改築案は「廃案」にしなければならない。「素案」にしても議論は深まっていないというよりも、計画そのものが脆弱すぎる。40年前ならいざ知らず、てもどりのないという発想は今日の環境面、財政面を考えれば余りにも拙速的な考え方と言わざるを得ない。現実の必要性から実現可能な工事計画はたくさんある。洪水対策で行わなければならないことは、先ず堤防の強化策、必要やむを得ない場合の堤防の嵩上げ、狭窄部の改善、掘削と現在の土木技術で出来ない洪水対策はない。

それともあらゆる困難な問題を強行突破して計画から30年後の無用の長物を造るか、考えなくても判断できる選択肢である。同じ轍を踏まない為の当委員会である。同じ轍で思い出したが、大滝ダムの地滑りは正に大迫ダムでの大型地滑りの教訓を全く生かしていない。当流域委員会は同じ過ちを繰り返さない為に初めての市民参加に基づき行っている。旧委員会で行った行政指導の旧河川法では立ち行かなくなった現状をもう一度真摯に振り返り今後の河川管理に活かしていかなければ元の木阿弥になる。

最後に堰建設で問題を提起した吉野川第十堰可動堰の結論がでた。「可動堰以外のあらゆる方法を抜本的に検討する。」というものである。00年1月徳島で行われた住民投票の9割が可動堰に反対した。その背景の一つに、徳島の住民の方が紀ノ川大堰を見学して絶対にこのような可動堰を建設させてはならないと決意したことがある。それから時間を掛け、多角的な議論を経て先日、県知事の判断が下された訳である。これを教訓に今度は和歌山県民が徳島の英断に見習い岩出井堰の全面改築を一から見直ししなければならない。

結論として、当流域委員会が目指すところの「てもどりのない計画」は将来的に治水、利水、環境に私達の想像以上の弊害を及ぼす。従って、現井堰を置いて緊急、応急に治水、利水、特に環境における景観を配慮した改修を再検討しなければならない。
以上が素案に盛られた堰改修における、岩出井堰全面改築を見直す意見書である。

以上の意見書に基づき、大滝ダムの工期歳月40年、総工事費用約4000億円を懸けて未だ機能しない大滝ダムの公罪を述べ続けた訳だが、中川委員長が「分かった、分かった」と発言を遮り、例の大滝ダム性善説を早口で捲し立て始めたのです。この委員長の向きになった時の論調はお決まりです、笑いすら誘われます。結局、私と同じ時間を費やし、今後大規模工事など出来る訳がない、「てもどりのない工事」とは、部分改修を手堅く確実に行っていくということで私の誤解であると述べたのです。

そこで私は「誤解していましたか」結構です、全面改築がないということであれば大いに結構、誤解を改めますと発言した次第です。今後再び、紀ノ川河川に仁王立ちした紀ノ川大堰の公共悪、無用の長物を造らせてはなりません。
            
紀ノ川流域委員会委員 ・ 岩畑 正行