2009年05月20日

【転載】白神の悲鳴が聞こえる

白神の悲鳴が聞こえる 押寄せる人波、戦闘機、そして温暖化
http://www.222.co.jp/netnews/netnews.php/articles/detail/SN/37341

先ごろ、世界自然遺産・白神山地への入山数が発表された。各紙は、入山数が2万人減ったと報道した。しかし、白神山地へ押し寄せる“人の脅威”は依然として続いている。それに加えて、三沢から低空で飛来する米軍戦闘機、忍び寄る温暖化。自然の残存率指標とされるクマゲラの生息数も芳しくない。数々の情報は、白神山地の悲鳴を伝えている。

環境省が2月末に発表した、白神山地・世界自然遺産の2008年入山数調査によれば、入山総数は2007年の75393人から約2万人減った53982人。これは、夏場の天候不順が響いた結果だと言われる。

しかし、革靴の観光客も訪れる極めて観光旅行色の強い「暗門の滝」が、全入山者の約70%を占めることと、自然遺産の核心地域から若干離れていることとを考え合わせるならば、これを除いた個所の入山数がより白神山地に押し寄せる「人波」の実勢を表わしているだろう、と思う。

2000年からの計測数は行き帰りの判別がつかないので、新機器で往復計測が可能となった2004年から2008年までを見てみると、「暗門の滝」を除いた10個所の入山数は、24052人(2004)、23938人(2005)、21080人(2006)、22227人(2007)、20125人(2008)と、毎年2万人台を維持し、依然入山者が衰えを見せていないことが分かる。
(*注:2004年からの統計の個所を均一にするため、2007年から増設した「真瀬岳」や「大川」は省いた)

また、核心地域への入山は、青森県側では許可制から届け出制に移行した2003年からガクンと減り、2003年520人、2004年582人、(2005年不明)2006年385人、2007年364人、と漸減している。しかし、秋田県側の許可人数を加えると、80人ぐらい増える(2007年)し、秋田県側から越境して無許可無届けで進入する不届き人物らがいるから、実数はその3倍と言われている。届け出制が入山自由の風潮を助長したかどうかは明らかではないが、核心地域でこれだけの人数が侵入すれば、その「危険」は十分ではないか。

報道によると、遺産地域での釣り人などのの焚き火、捨てタバコ、放置釣りの針糸、はては植物盗掘、イワナの密漁などが絶えず、厳しい規制を求める声も上がっている。

白神山地の核心部分は、上空から眺めると、たとえば毛むくじゃらの犬が伏せをし、上体を左側にねじったような形状をしている。そして、これに各入山者が<目指す主だった目的地>を当てはめてみると、見事に「犬の身体」を縁取っている。その「前線地点」が核心部分を四方八方から攻め立てているのである。

具体的に、核心地域の縁の、白神岳、櫛石岳、天狗岳、真瀬岳、核心に迫る緩衝地点、二ッ森、小岳の合計6個所、この入山者だけで、9000人をゆうに超える。しかも、これに核心地域縁にある公園が設定されているから、まだ危険性は増えることになる。

ここで問題となるのは、緩衝地域。緩衝とはいうものの核心部分に迫る場所である。緩衝地域なら入っていいというのでは、本来緩衝の意味をなさない。そして、肝心なのは、核心部分の縁。縁である尾根筋といっても、核心部分の外縁そのものなのだから、その内部にストレスを与えるには十分。ストレスは尾根で遮断されるわけはない。鳥、哺乳類などは極めて敏感であり、また餌付け習慣化の危険もあるし、オオバコなど帰化植物の侵入も実際確認されている。

時代の情報伝達の利便性は高く、白神の保護運動をしている団体、あるいは官庁のアップした情報が、逆の行為に使用されている疑いがあるだろう。たとえば、ルート、地図、ある情報など。核心地域に入ったルポなどは公然と公開されているし、道路情報も細かに報告している人物も複数存在している。善意が悪意と隣り合わせなのである。

思うに、地元の自給自足的生活は、すでに近代化の波に例外なく洗われ、貨幣経済の優先する生活に変貌を遂げたからには、昔に戻ることは到底無理筋な話で、その地域住民の入会権的権利を守ろうとすると、その圏外民との峻別を考えないと、すべて自然遺産地域に区別なしに押し寄せることになる。これでは、所期の目的が逆の結果つまり自然破壊を生むことになる。

どこでも、自然とともに暮らして来た民に訪れたのは、自然と対峙する経済行為だった。2足歩行で自然遊離して人間となった我々は、自然に働き掛けて経済を産み、その経済は自然を加工し、ついには破壊荒廃にまで進む。経済と自然の共生はひどく難しい。自給自足的生活は、ある場所では観光という経済生活へ転換させられる。自然と生きる生活文化の、その関与が、観光客へどこまで有効性を持ちうるのか。

「人の数は力」なのであり、その侵害性はクマゲラにもその他の動植物にとっては、学者、カメラマン、巡視員でさえ例外としない「人間としての脅威」なのである。

クマゲラは、世界自然遺産に選定去れて以後、皮肉にも急速に姿を消した。押し寄せる観光客のために。そして、近年の生息状況も芳しいものではないと、伝え聞く。

2005年11月、共同通信は世界に向けてこう発信した。“Rare woodpecker may be gone from Honshu”と。あなたは、この“may be gone”という響きをどう聞くだろうか。わたしには、とても耐えられないぐらい悲しい響きだ。

[ 記者:森山つきた ](ツカサネット新聞)